LINX

INTERVIEW インタビュー

時代が迫る企業のデジタル化、低コスト・利便性・安全性を企業はどう準備すべきか
知られざるSMSの可能性を考える(後半)

元NTTドコモ代表取締役 副社長 辻村清行
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元経済産業省 石川和男
スペシャル対談

2020年6月26日、政府から規制のサンドボックス制度において、実証計画の認定を受けたリンクスの「SMAPS(Short Message Accelerate Platform Service)」。SMSを活用し、低コスト、安全性、利便性を備える企業が消費者への連絡手段「BtoP(Business to Person)」として注目を集めています。この対談では、今回の認定手続を手掛けられた三宅坂総合法律事務所の弁護士・佐藤直樹さんに加えて、リンクスのアドバイザーで元NTTドコモの代表取締役副社長の辻村清行さん、政策アナリストで元経済産業省の石川和男さんを迎え、お二方の「民と官」でのご経験を通じて、近年のデジタル化の流れの中で、企業のデジタル化の際のポイントについて「通信」の過去も振り返りながら、お話しいただきました。

企業と消費者が直接的になり、企業側で変化したリスクとは?

インタビュー 佐藤さん - 後半では、企業側から見た視点でお話を伺いします。今までのような間接的な繋がりの中では発生しなかった新たなリスクや、ツールや環境が変わったことによってリスクがいわば変質してきているのではないかと感じていますが、いかがでしょうか。

辻村さん - 今起こっていることをネットワーク的に最初の整理としてやっておくと、基盤の電気通信ネットワークというのがある訳ですね。その上にインターネットというものがあって、その上にプラットフォーマーのアプリケーションがあって、その上で売り手と買い手がいると情報をやりあって、そして最後にものが動くと、こういった階層になっている訳です。
プラットフォームというところでいくと、プラットフォーム上で流れている様々な情報に対してプラットフォーマーがどのような責任があるのだということで、色々な議論があるのだと思います。
例えば一つの事例でいえばSNS上でヘイトスピーチがあったり、あるいは偽の情報が流れたりということもあって、その情報を流通させているプラットフォーマーにどのような責任があるのかという議論がありますが、これは世界的な解はまだ無いと思います。いま解は無いですが、どのように消費者を守っていくのか、消費者の自己責任と消費者の保護をどのような関係にしていくのかということは、世界的に解いていかないといけない課題ではないかと思います。

インタビュー 石川さん - 安全性といえば情報漏洩とかハードそのものが壊れないかとか、クラウドの安全性とか色々と思うんですけど、そういうものは普通の上場している企業がやる場合は社会から批判を浴びやすいので、実は自分も上場企業の役員をやっていて情報管理にはかなりセンシティブですが、企業を経営するという立場で考えるとハード・ソフトのセキュリティや通信の秘密は、携帯会社やネット関連企業が競争して新しく合理的なセキュリティのシステムをサービスとして提供しているので、その中から企業が費用対効果を踏まえてどれを選ぶのかということで、日進月歩で進んでいくものなので選択肢はこれからも永遠に出てくるものかなと思います。
また、機器の壊れやすさや情報漏洩といったハード面・ソフト面もさることながら、私はReputation(評判)について焦点を当てたいです。みんなが自由に情報を書き込んでいく時代、企業にとって誹謗中傷やデマが広がるのは大きなリスクと考えられます。

辻村さん - 新型コロナウイルス感染症の拡大において、インフォデミック(Infodemic)という言葉が世界保健機関(WHO)によって使われました。これは、Information(情報)とEpidemic(伝染病)を合わせた言葉です。コロナに関して2月3月の時点ではよく分かっていなかったため、一般人がどう防いでよいのかもわからず、医学的なエビデンスに基づかない情報がたくさん出てきまして、正しい情報と間違った情報がごちゃ混ぜになっていました。そんなところで色々なところがファクトチェッカーということで事実に基づく情報と基づかない情報を整理する人たちが出てきて、さらに行政がこういう情報は間違っていると積極的に発信していって、インフォデミックはだいぶ沈静化してきたかと思います。そういうことが起きにくいチェック機能やシステムというのを同時並行的に社会が作っていく必要があるだろうなと思います。

石川さん - 何が正しいのか、そうでないのか。一つひとつを人が確かめるのは難しいでしょう。企業間の競争原理をうまく活用しながら、情報の妥当性を選別する仕組みをどう築いていくかが今後の課題だと思います。

便利さは脆弱な基盤の上に成り立っている
問われる人間の知恵

佐藤さん - コロナ禍の話題が出てきましたので、その影響についても伺います。否応なしにテレワークが加速し、また、今後のオンライン診療などの普及も注目されます。

石川さん - そうですね。今までだったら、“テレワークって便利だよ”と言っても、あまり進みませんでした。実際に経験してみたら、意外と便利だと実感した人も多いのではないでしょうか。移動がないからアポイントも取りやすくなりましたし、そういう意味では生産性が高まったなという印象です。

インタビュー 辻村さん - 利便性の観点から見ると、テレワークやオンライン医療は魅力的だけれど、やはり人との対面での交流も大切です。今後はオンラインとオフライン(対面)のコンビネーションで、良いバランスに落ち着いていくのではないか、と予想しています。コロナ禍が落ち着いたとしても、完全に元に戻ることはないでしょう。オンラインは“便利だ”という一方通行の議論は危険です。便利さは脆弱な基盤の上に成り立っているということを忘れてはいけません。例えば2019年、千葉県では台風の影響で数日間にわたって電気が通らなかった地域がありました。その間オンラインは、全てが止まってしまうのです。

石川さん - 蓄エネルギーのための安価な素材が見つかったなど、近年では蓄電が注目されていますね。

辻村さん - 足をすくわれたときにどうするのか、ここでも人間の知恵が問われていると思います。

これからのデジタル化社会に求められる企業の姿勢

佐藤さん - 近時(注‐本対談当時)発表された「骨太方針2020」の中では、デジタル化の遅れが指摘されています。今後のデジタル化で企業に求められる姿勢など、お二人の問題意識をお聞かせ願います。

インタビュー 石川さん - 行政は融通が利かないように思われているかもしれませんが、官の立場にいた経験からすると、決定されれば即座に実践する組織です。一方、民間企業は意外とそうでもないな、と感じています。企業がどこまで意識を変えていけるかが、これからのデジタル化の鍵なのではないでしょうか。

辻村さん - 多くの日本企業は海外に比べてデジタル化が遅れているのが現状です。大きな理由のひとつには、やはり公的な場面でハンコや書面を求められることが多いことが挙げられます。ここは行政側に先導してほしいと感じています。

石川さん - 政府が実情に合った決定をするためにも、民間企業の知見をどんどん伝えていってほしいですね。

辻村さん - もう一つの要素として、改革を進める中では現状を変えたくない人たちからの抵抗もあるかもしれません。そのような内部の抵抗勢力を自分たちの仲間にして、新しいデジタル文化を一緒に作っていくという目配りが民間企業として必要なのではないでしょうか? リカレント教育であったり、色々な取り組みで、そういった人たちにも理解してもらい、仲間になって、共に新しいやり方を作り上げていく姿勢が大事です。

インタビュー 石川さん - デジタルの世界は日進月歩。企業同士が切磋琢磨することで、より安全性の高いサービスを作り上げていくことが可能です。企業間の競争原理の仕組みが上手に活用されることを願います。

辻村さん - デジタル化においては、“他国からの遅れを取り戻す”にとどまらず、世界で先導的な立場を目指すことが日本の役割だと信じています。新しい技術には、必ず光と影の両面があります。大切なのは、その影の面をいかに小さくしていけるか。そして、それを受容するために、ルールやマナー作りを通して、さらなる成熟した社会を作っていけるかです。これから日本は、AIやロボットなどの新しい技術をどんどん社会に取り入れて、先駆者として世界に発信していくべきです。今回のSMAPSも、その一例になることを願っています。

佐藤さん - 本日は、SMSやSMAPSだけでなく、非常に幅広い話題についてお話しいただきました。社会的な責任を担う公器でもある企業は、利便性のみならず、今までと性質の異なるオンライン上での安全性がますます強く求められそうですね。その意味で、SMAPSには、SMSを軸として利便性と安全性を兼ね備える通信インフラとしての役割が期待されるのではないかと思います。本日はありがとうございました。

プロフィール

LINXアドバイザー、元NTTドコモ副社長
辻村清行 氏

1975年 日本電信電話公社入社
1992年 7月にNTT移動通信網株式会社(現株式会社NTTドコモ)
ドコモ設立メンバーとしてドコモの急成長を牽引する
2008年 同社代表取締役副社長
2017年 東京工業大学 特定教授
株式会社エリーパワー株式会社 社外取締役(現任)
2019年 東京大学客員教授(現任)
プロフィール

元経済産業省、政策アナリスト
石川和男 氏

1989年 東京大学工学部卒業
1989年 通商産業省(現経済産業省)入省
2007年 経済産業省退官
2017年 秋 一般社団法人日本中小企業金融サポート機構 理事
http://iigssp.org/profile.html
プロフィール

三宅坂総合法律事務所 弁護士
佐藤直樹 氏

2008年 東京大学法学部卒業
2010年 慶應義塾大学法務研究科修了
2010年 最高裁判所司法研修所入所(第64期)[~2011年11月]
2011年 弁護士登録(第二東京弁護士会)
2012年 三宅坂総合法律事務所入所
慶應義塾大学法務研究科非常勤講師(助教)[~2013年3月]
三井物産株式会社(法務部)在籍出向[~2017年8月]
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